くちなしの恋

今年もくちなしが甘く強い香りと共に純白の花の季節を迎えました。ちょうど47年前の今日のような梅雨の晴れ間の日射しの厳しい午後、私は母の友人の紹介である男性と、ホテルのティルームでお目にかかりました。今から考えるとお見合いでした。しかし、表面はお見合いでしたが、2人の気持ちは出会ってすぐに運命的なものを感じていました。

くちなしの花言葉は、「私は幸せ、幸せを運ぶ、清潔」とありますが、その通りの日々が続きました。
未熟児で生まれ、虚弱児だった私を彼は、1人の女性として大切に育んでくれました。私にとってもかけがえのない人でした。
ご存知のようにくちなしの花の寿命は短く、すくに茶色く色が変わるように、彼との幸せは運命のいたずらで長く続きませんでした。
その後、 確か日曜洋画劇場でキャサリーン・ヘプバーンとロッサノ・ブラッツイの「旅情」のラストシーンで、キャサリーン・ヘプバーンが妻子のあるロッサノ・ブラッツイとの愛を断ち切って、アメリカに帰国する列車にくちなしの花を持って走ってくる場面があります。その時のくちなしの花の白さが印象的でした。私は涙が止まらなくなりました。おそらく、その時の濃密な愛との出会いが彼女を成長させてくれるのではないでしょうか。そんな想いを私も彼との日々に重ねていました。
くちなしの花言葉にはもう一つあります。「胸に秘めた恋」です。おっと、私は不倫の恋ではないことを申し添えます。古希を過ぎた私ですが、まだ消し炭のように、6月12日に合わせたように咲くくちなしの花は今でも私には忘れることのできない大切な人生のワンショットです。