1979年10月1日の午前10時、私は大磯にお住いの日本画家の堀文子先生の御宅の玄関の前にいました。
緊張が最高潮に達しています。縁遠い私は、33歳の時に思い切って自立を考えました。幸運にも父親の友人の勧めもあり、銀座に画廊をオープンすることにしました。
画廊についての経験は全くなく、今振り返ると、若さゆえのことのように思っています。
場所も決まり、内装工事が始まり、12月にオープンする目安もつきました。
老舗の日本画の画商さんを、文藝春秋の上司の方が紹介してくださいました。画商さんから、畏れ多くも堀文子先生を紹介してくださったのです。
応接室に案内された私に、「淺野さん、画廊オープンのお祝いをしましょう」とおっしゃって、なんと朝の10時過ぎに「おめでとう、乾杯」と赤ワインでお祝いをしてくださいました。
気がつくと、お昼近い時間にお暇の挨拶を申し上げました私に、「一緒にお昼をしましょ」と、和室に案内してくださいました。
すでに、にぎり寿司が用意されています。そして、「もう一度、日本酒で乾杯」と盃を交わすことになりました。
まだ、未知数の私を温かく包み込んでくださいました。忘れられない貴重な時間を過ごさせていただきました。
ちなみに、10月1日は「日本酒の日」と、今日初めて知り、37年前の堀文子先生のことを思い出しました。