ホテルの部屋で、私はのんびりと時を過ごすことに、戸惑っている自分に気づいた。
どうすれば、主治医のアドバイスに適うのか、何をすればよいのか、暫く
思いつかず、先ず、テレビのスイッチを入れた。
凡そ、3年前と記憶しているが、私はテレビを廃棄したのである。
その後は、ラジオと、マンションの各部屋に設置されている有線放送で、
音楽を聞いている生活を過ごしている。
ラジオを通して活躍している人の声から、テレビの映像で見る容姿に想像との違いが、新鮮で、ついつい見入っていた。
そうか、テレビを見ている間、画面に気を取られ、ラジオと違って、頭が
他のことまで働いていない。
視覚と聴覚の違いがあるのか、テレビから遠ざかっていた私は、今、視覚からの情報に興味津々になっている。
新聞のテレビ番組から、昔のように番組をチョイスしているではないか。
改めて、先ずは一つ、頭を空っぽにして、ぼんやりしなさいとのアドバイスの意味をキャッチした。
ゆっくりバスタブに身を沈めながら、自宅と違い、入浴後、換気扇と共に風呂場の水滴をふき取る作業もしなくて済む。
日頃の日常生活から、一つ一つ、解放されている。
つまり、「ねばならない」という使命感もないのである。
ガサガサに渇き切った私の心も体も、砂漠で「オアシス」に出会ったような、潤いを感じ始めている。
何時しか、強張った全身の力が抜け、心地良い眠りに誘われていく自分がいた。