夕刻、友人から「これから栃餅と丸餅と筑前煮を届けるわね」との連絡に
私は、彼是、お正月料理を作ったことがないである。
「一人住まいだから、わざわざ、お節料理を作らなくても、あなた一人分ぐらい、準備するから」と言われて、久しくなる。
確かに、お煮しめ一つにしても、鍋料理と同じで、ある程度の量の具材を
煮込んで美味しくなるのと、同じように、一人前の正月料理では、満足な味付けが難しい。
店頭には、思わず手を伸ばしたくなる綺麗に盛りついたお節料理や、具材が並び、食欲をそそるものばかりだ。
しかし、長年、友人のお節料理に、馴れ親しんでいる私は、心待ちにするようになってしまった。
その楽しみの一つに、縄文時代から食されていたといわれる、強烈な刺激に、アクが強い「栃餅」が大好きである。
最も栃餅文化の残っているといわれる山形県鶴岡市朝日地区に伝承されている「アク抜き」をした、茶色で丸餅の「栃餅」の雑煮が楽しみである。
今年は、今夜、一年に一度の待ちに待った好物の「栃餅」の雑煮を食べられると思うと、一人住まいの雑煮に、侘しさを感じない。
友人は、栃餅に、三つ葉と紅白の蒲鉾と至れり尽くせりの具材も添えてあり、また昨年末の柚子がまだ、薫り高く、色鮮やかさを残している。
透明な澄まし汁を、朱色のお椀に注ぎ、一人ぼっちの「お雑煮」に、私は至福の時を味わった。